#12「任務」
卵の上に座っていた。
二年くらい経つだろうか。
その日の夜は、いつものように仕事を終えて、家に帰る途中だった。いつものようにつまらない一日。上司の嫌味とスーパーの半額総菜のことを考えていたとき、突然意識を失った。
気付くと、僕は半径三メートルはある卵の上に座っていた。
僕の知っている場所ではなかった。
卵は灰色のコンクリートでできた小さな部屋の中央に置かれていた。
脇には卵の上に昇るための脚立があった。降りると、床には「取扱説明書」と書かれた一枚の紙。
他に、部屋の中には布団が一式あるだけだった。
一つだけある窓から外をのぞくと、一面、草原だった。少し向こうに、小さな川が緩やかに流れていた。
一体ここはどこなのか。携帯電話は電池が切れていた。
取扱説明書を見てみると
『この卵の中には神様が入っています
私達を守ってくれる神様です
無事に産まれないと、私達は滅びます
なんとしても無事に孵さなければいけません
がんばりましょう』
何が「がんばりましょう」だ。
しかし、まあ、帰り道はわからなかったので、僕は仕方なく、卵の上に座って孵化させてみる事にした。
最初、食料の心配があったが、不思議とお腹が空かなかった。
水は近くの川から飲んだ。
自分がいないとこの神様は産まれない。
「私達は滅びます」
それだけは阻止しなければいけない、気がする。
「私達」に僕が入っているのかはわからないけど。
仕事よりも、責任が重大だ。
なぜか、小学校のときの給食係を思い出した。
卵は、一体、いつ孵るのだろうか。
こんなに大きいのだから、何年もかかるかもしれない。
けれど、それでいいと思った。
がんばろう。