#9「端」
「端」はとても近かった。
三十分くらいだろうか。雨の渋谷の街をさまよっていたら、迷い込んでしまった。
「端」はとても遠いところのイメージだったので、迷い込む事があるなんて、夢にも思ってみなかった。
そこは、ちょっと薄暗くて、うっすら公衆便所のような匂いがした。
両側はコンクリートの建物の、薄汚れた壁。壁には「PEACE」とスプレーで落書きがしてある。
空気は雨のせいで、陰気だった。当然、自分以外は誰もいない。
―地面には、はっきりと、ここが端だと言う事を示す線がひかれていた。
ネズミが壁に空いた穴から姿を見せて、一瞬で別の壁の穴に姿を消した。
ここには来ないようにしていた。正確に言うと、来ないように教育されていた。
危ないから。そう、小学校の先生は言っていた。
そのせいで、同級生もみんなそう言っていた。
僕もそう思っていた。けれど、来てしまった。
せっかくきたのだから。端に、もう少しいてみよう。
「What are you doing in such a place?」
「え?」
地面にひかれた線の向こう。同じような「端」にソイツは立っていた。
僕と違う顔をしていた。
僕と違う言葉を喋っていた。
僕と違う何かを持っていた。
"It's my first time talking with the person who is over the line."
「何言ってるの?」
"Ah…well…"
「えっと……元気?」
"Why did you come here?"
「何をしてるの?」
"I wish I understood what you said"
「ねえ、そっちは、どんな感じ?」
"I have a question. Is your place fine?"
「そっちでは、人は死んでない?」
"I hope you not to have hard days."
「なんか君とは友達になれそうな気がするんだ」
"You look so sad, why?"
「なんだか、端、も、悪くはないんじゃないか、と、思うんだ」
Suddenly, a police came to him.
The police held his arm, and quickly took him to somewhere.
Probably, somewhere awful. I hoped he was not going to be killed.
I was alone here, in front of the line.
It still rained.