MoonCupRoof

劇作家・演出家、萩谷至史の日々のあれこれ、や、短い作品たち

#12「任務」

f:id:hagiya4423:20171110155422j:plain

 

卵の上に座っていた。

二年くらい経つだろうか。

 

その日の夜は、いつものように仕事を終えて、家に帰る途中だった。いつものようにつまらない一日。上司の嫌味とスーパーの半額総菜のことを考えていたとき、突然意識を失った。

 

気付くと、僕は半径三メートルはある卵の上に座っていた。

僕の知っている場所ではなかった。

 

卵は灰色のコンクリートでできた小さな部屋の中央に置かれていた。

脇には卵の上に昇るための脚立があった。降りると、床には「取扱説明書」と書かれた一枚の紙。

他に、部屋の中には布団が一式あるだけだった。

一つだけある窓から外をのぞくと、一面、草原だった。少し向こうに、小さな川が緩やかに流れていた。

 

一体ここはどこなのか。携帯電話は電池が切れていた。

取扱説明書を見てみると

 

『この卵の中には神様が入っています

 私達を守ってくれる神様です

 無事に産まれないと、私達は滅びます

 なんとしても無事に孵さなければいけません

 がんばりましょう』

 

何が「がんばりましょう」だ。

しかし、まあ、帰り道はわからなかったので、僕は仕方なく、卵の上に座って孵化させてみる事にした。

最初、食料の心配があったが、不思議とお腹が空かなかった。

水は近くの川から飲んだ。

 

自分がいないとこの神様は産まれない。

「私達は滅びます」

それだけは阻止しなければいけない、気がする。

「私達」に僕が入っているのかはわからないけど。

仕事よりも、責任が重大だ。

なぜか、小学校のときの給食係を思い出した。

 

卵は、一体、いつ孵るのだろうか。

こんなに大きいのだから、何年もかかるかもしれない。

けれど、それでいいと思った。

 

がんばろう。