#8「平和賞」
なんでそんなふざけた顔でいられるのだろうか、正直僕にはよくわからない。
どう考えてもおかしいと思う、とても、この世は、うまく言えないけれど、25年間うまく言う事ができなかったけれど、やっぱり、おかしいと思う。でなければ、僕はこの商店街のふざけたマネキンの前で這いつくばって号泣しているなんて事は起こりえない。
ああ、彼女も前髪はこんな感じで流していたな。
ああ、それにしても一方的すぎる。
5年もつきあってて、こんなあっけなく終わるなんて、
これから、僕はどうすればいい?
頭にはあの瞬間が焼き付いている。
「私には何の関係もないわよ」
みたいな顔で立っているコイツは世界平和の象徴だ。絶対。
こいつの着ている服は、なんか、だめだ、カラフル、の、中、の、赤、赤、は、身体中の赤、は、あのときの、一生、消えない、記憶、汗、走る音、悲鳴、突然の、警報。
あの瞬間、僕は、彼女と家でお昼ご飯を食べていた。
ついにここにも来たか、と、思って空を見上げた。
しかし、爆撃機の姿は無かった。
代わり、に、地上、目の前、を、たくさんの銃を持った兵隊。
こんな平和な街が、地上戦になるとは思わなかった。僕は彼女と逃げ出した。
奴らは一般人も容赦なかった。
逃げる、銃声、おしゃれなカフェ、爆発音、池の中のスワンボート、倒れる人、心臓、古着屋、涙、地面、血……あ、
駅前、よくデートで待ち合わせをした駅前、で、後ろから声が聞こえた。聞き慣れた声、だけど、聞き慣れない絶望を孕んだ音。振り向きたくない。けれど、けれど、声色、けれど、声色、けれど、彼女の身体は、丁度、この服、の、赤い部分のように。
これから僕はどうすればいい?
街は静寂に包まれている。現実は現実でいることを放棄していた。
レストラン、カラオケボックス、本屋、たくさんの、死体。
これから僕はどうすればいい?
悲劇を逃れた平和の象徴は、決して目を合わせてくれなかった。