#6「フマゴンの夜」
「ちょうどここよ」
真夜中、家から少しだけ離れた公園。キミは立ち止まって話しだした。
「ある日、真夜中、まだ誰もいない時間に、突然それは産まれたの。何の前触れも無く。そうして、怪獣フマゴンは闇夜に溶けて、時々、人々を不幸のどん底にたたき落とすの。」
静まり返った公園に、キミの声だけが聞こえる。
「なにそれ?」
「職場の人から聞いたの」
「……で?」
「面白くない?」
「それだけの事を話すために、わざわざここまで連れ出したの?」
キミはふまふまと笑っていた。
「帰るよ」
早く帰りたかった。僕はあきれていた。
けれど、理由はそれだけではなかった。
キミの穿いていたロングスカートが、キミごと夜の闇に消えてしまいそうな気がして怖かった。
だから、手を握って、歩き出す。
「怖かったんでしょ」
「え?」
「フマゴンの話」
何も言わずに強く手を握ったら、
何も言わずに強く手を握られた。